「…はっきりした傾向が見られますね。」
医者の無機質な白い顔が、表情を変えずに口を動かす。
「えっ?」
病気…?なんの話だろう。
受け答えは完璧に、ハッキリできていたはずなのに、記憶が曖昧。
「以前は、もっと別の呼ばれ方をしていました。今は、こう診断されています。」
あぁ、なんとなく聞いたことはある。
確かに、自分でも気づいていた。
気持ちが不安定なことに。
「以前から、こういうことはありませんでしたか?」
「…あったと思います。産後に、気持ちが滅入っていた時とか。」
「もっと若い頃には?」
「学生時代、剣道をしていて。辞めたかったのに、辞められなくて。意地でも続けていた時期です。」
「その時から、かもしれませんね。」
処方された薬の名前は、聞きなれないものだった。
とにかく寝るように、また来るようにと言われた。
帰り道、ぼうっとしながら、
頭の中では、忘れていたはずの
高校時代の剣道部の竹刀の音、打ち込みの音がずっと鳴っていた。
剣道のことばかり、考えていた。
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